映画「ウォール街」    映画とユダヤ人

映画「ウォール街」(原題 Wall Street)の公開は、1987年12月11日です。
2か月前の1987年10月19日(月)は、ブラックマンデーと言われ、ウォール街の株は大暴落し
レイオフ旋風が吹き荒れ、不動産価格は暴落しアメリカは不況に陥りました。
そんな金融不安のただ中に映画は公開されました。
ゴードン・ゲッコウ(マイケル・ダグラス)は、ウォール街の相場師で巨万の富を築きます。
アイヴァン・ボウスキーはロシア系ユダヤ人でゲッコウのモデルと言われています。


人間の欲と金は、人生を狂わせ人間関係を破壊する。
そのようにオリバー・ストーン監督は映画を描きますが、映画を見る人は別な見方をします。
映画を見て、ゴードンに憧れ投資銀行に入社する者が増えました。
ゴードンのファッションを真似てサスペンダーや葉巻が流行りました。
映画「ウォール街」は、冷酷かつ強欲な投資銀行家を描きながらM&Aや投機に蠢く金融業界の賛同者を増やしてしまった事に、オリバー監督は遺憾を表明します。
オリバー・ストーン監督の父は、ユダヤ系米国人でウォール街の株の仲介人だったそうです。

映画 「栄光への脱出」    映画とユダヤ人

 映画「栄光への脱出」は先日他界したポール・ニューマンが主演。
レオン・ユリスの小説エクソダスの映画化で、監督はオットー・プレミンジャー
1960年アメリカ映画で、映画名は小説名と同じエクソダス
Exodusはギリシャ語で、大挙した脱出・出口という意味ですが聖書の「出エジプト記」に因んでいます。


映画のエクソダスとして「栄光への脱出」を下記の4観点から見れます。
(1)映画解説と時代背景              歴史上のエクソダス号事件をもとの映画化
(2)欧州キリスト教社会のユダヤ人問題    ユダヤ人問題の東方移動と植民地主義
(3)シオニズムについて              ユダヤ人国家建設とユダヤ教の提携
(4)二つのエクソダス               「映画のエクソダス」と「聖書のエクソダス

欧州キリスト教社会特有ののユダヤ人問題が、その本質です。
約千年近くユダヤ人は欧州で、迫害されても・迫害されても欧州に留まっていました。
イスラム圏に逃げたユダヤ人もいました。
しかしほとんどのユダヤ人は、欧州に留まっていました。
ある事件(ドレフェス事件)をきっかけに、ユダヤ人は自分たちの国家を作る以外に迫害をさける事は出来ないと言い始めました。
第二次世界大戦ナチスドイツキリスト教社会のホロコーストを生き延びたユダヤ人たちは、ユダヤ人国家を作るために
欧州キリスト教社会を脱出(エクソダス)しました。
その時にエクソダス号事件が起こります。
エクソダス号事件の結果と映画「栄光への脱出」の結果とは違いますが、時勢は映画の結果の方に流れます。

映画に見るユダヤ人  その10 「戦場のピアニスト」 #4

戦場のピアニスト」のテーマは、新進気鋭のユダヤポーランド人ピアニストシュピルマンユダヤ人仲間から
そしてポーランド人音楽仲間から助けられ生き延びていきます。
さらに敵のドイツ軍将校との出会いでもピアニストゆえに生きながらえる物語です。


戦場のピアニスト」でもう一つ取り上げたい対照的なテーマがあります。
1600年もの間ユダヤ人はただ黙って「ほふり場にひかれて行くおとなしい子羊のよう」に
自分の運命である迫害・追放をただ黙って受けていましたが、それでよいのか?と言う問題です。
ワルシャワゲットー蜂起は、1943年4月19日から5月16日の間続いたユダヤ人の武装蜂起です。
1942年末までユダヤ人の追放は強制労働の為だと思われていました。
当初ユダヤ人抵抗組織はドイツに対して戦わないことを決めていました。
やがて追放が絶滅強制収容所へ移送される死を意味する事が分かり、残ったユダヤ人達は
戦う事を決意しワルシャワゲットー蜂起を起したのです。
ナチスドイツ軍への最後の抵抗をするユダヤ人が戦う中で、シュピルマンワルシャワゲットーの
すぐそばの建物に銃声を聞きながら潜んでいます。
千数百年の間ユダヤ人の歴史はただ虐殺・追放を黙って受けて逃げていました、まさにシュピルマンのようにです。
ワルシャワゲットー蜂起の意味は、ユダヤ人への虐殺・追放を黙って受けず戦い始めたことです。
このワルシャワゲットー蜂起のユダヤ人の新しい流れは、イスラエル建国(1948年)へと
引き継がれて行きます。
この時からユダヤ人追放がヨーロッパ脱出(エクソダス)に変わり、流浪の民が建国する民に変わります。
この新しい流れは今日の中東紛争・パレスティナ問題を暗示しています。

映画に見るユダヤ人  その9  「戦場のピアニスト」 #3

 なぜピアニストが生き延びれたのか?について
ウワディスワフ・シュピルマンは、ポーランドワルシャワゲットーに住むユダヤ人ピアニストです。
この時にはすでにワルシャワラジオ放送局でピアノを演奏する名の売れたピアニストです。
戦時下においてシュピルマンは生き延びるために、人間の善意に頼るという全く当てにならないものに
頼るしかありませんでした。
同じユダヤ人同士の仲でも他人の善意などと言う当てにしてはならないものです。
ワルシャワゲットーのユダヤ人が強制収容所に移送される時、
知り合いのユダヤ人ゲットー警察官のリーダーに移送中の群衆の中から一人助けられます。
抵抗組織の一員なら救助はなかったでしょうが、ピアニストだから助かります。
ユダヤ人強制労働者の群れに潜り込みます。
その時もピアニストとして知られていたので仲間の協力により肉体労働から軽い労働に回されます。


ある時ゲットーの外の作業のとき、ポーランド人の音楽仲間を見つけゲットーを抜け出し
音楽仲間の地下組織に匿われます。
ワルシャワゲットーのすぐそばの建物に潜みます。
この時にワルシャワゲットーの蜂起が起こります。
ユダヤ人が立ち上がったので次はポーランド人の立ち上がる番だと援助者はシュピルマンに告げます。
シュピルマンは逃げるだけで、潜伏場所が危険になったので緊急避難場所に移ります。
シュピルマンはそこで昔の恋人ポーランド人のチェロ奏者の女性ドロタに会います。
今は結婚しているが、この戦争が無ければこのドロタと夫婦になっていたかもしれないのです。
そこも危険になりワルシャワゲットーの廃墟を逃げ回ります。
ポーランドの地下組織と音楽仲間により生き延びていきます。


次にある建物の中でナチスドイツ軍将校とばったり出会います。
その将校に自分はピアニストだと名乗ります。
偶然その建物の中にピアノが置いてありそれを弾けと言われます。
シュピルマンショパンの♪夜想曲嬰ハ短調♪を弾いたらしい。
みすぼらしい男がピアノを弾き始めると調律の怪しい古いピアノとはいえ見事で
その演奏に聴き入ったドイツ軍将校は、シュピルマンを逮捕することなしに
黙って出て行きました。
ある日シュピルマンのいる屋根裏部屋に食べ物を持って来て、ソ連軍が近くに来ているので
あと数週間我慢すれば解放される事を教えてくれました。
ピアノでドイツ軍にも助けられたシュピルマンは、解放されるまで生き延び、
また解放後もピアニストとして生涯活躍しました。


なぜシュピルマンが生き延びれたのでしょうか?
戦場で、ただピアニストとして生きるために逃げ回っていたからです。
そして戦場で、ユダヤ人・ポーランド人・ドイツ人の立場を超えて共感を得られるものは
音楽しかないのではないでしょうか。
音楽に神が宿った物語です。
















 

映画に見るユダヤ人  その8  「戦場のピアニスト」 #2

戦場のピアニスト」 #2

ピーター・カソヴィッツ監督  1938年生  ユダヤハンガリー人  7歳終戦  「聖なる嘘つき」 1999年61歳の作品      

ロマン・ポランスキー監督   1933年生  ユダヤポーランド人  12歳終戦  「戦場のピアニスト」2002年69歳の作品 

二人とも第二次世界大戦の開始1939年から1945年の終戦解放までナチスドイツのホロコーストを生き延びています。
監督略歴としては共通性の多い二人ですが、作品の内容は対照的なので二作品を書いて見ます。


「聖なる嘘つき」は、ゲットーに住むユダヤヤコブの物語です。
戦争が無ければポーランドユダヤ人で、名も無いパン屋さんの生涯だったのでしょう。
ところがナチスドイツ軍のラジオ放送をふと耳にすることから人生が変わります。
ソ連軍がポーランドに入りここから400KMの地点まで来ていると言うのです。
ユダヤ人解放の希望あり、の情報を元にユダヤ人仲間に希望を持たせるために、嘘の情報を流します。
その嘘の情報の希望に基づき、ユダヤ人抵抗組織のリーダーにされてしまいます。
「真実は人を殺す。嘘も人を殺す。」どちらの選択にも行き詰ったヤコブは、何も言えぬまま殺されていきます。
しかしユダヤ人仲間を乗せた強制収容所行きの列車は、ゲットーから50KM言った所でソ連軍に停止させられます。
自らの解放に半信半疑のユダヤ人達に解放の歓喜が待ち受けていました。


戦場のピアニスト」は、ユダヤポーランド人のピアニストでシュピルマンの自伝的回想録です。
ポーランドワルシャワラジオ放送局でピアノを弾いているときに、ナチスドイツ軍のポーランド侵入に会い
放送局の建物も砲撃を受けます。
すでに名の売れたピアニストですが、ただただピアニストとして逃げ回ります。
楽家が崇敬されるポーランドで、ユダヤ人仲間に助けられポーランド人抵抗組織に助けられ
挙句の果てにはドイツ軍将校に助けられます。
シュピルマンがピアノを弾けることで、その才能を惜しむかのように皆が助けていくのです。
映画の原題は、「The Pianist」でシュピルマンの人生を集約しています。
シュピルマンは誰かを助けたり、ユダヤ人やポーランド人のために抵抗組織に参加する人間ではありません。
またシュピルマンを援助し助けた人々への見返りは何もないのです。
ただ生き延びたから、小説になり映画になり我々の前にその人生と音楽を知らせたピアニストなのです。
ドイツ軍がワルシャワを撤退することになり、ドイツ人将校がシュピルマンのところへ別れに訪れました。
「どうやってあなたに感謝すればよいか?」とシュピルマンは尋ねました。
「私でなく神に感謝しろ。我々が生きるも死ぬも神の意志だ。」とドイツ軍将校は答えたのです。
「戦争が終わったら何をするのか?」と聞かれたシュピルマンは「ラジオでピアノを弾くつもりです。」
と答え、将校は平和が来たらラジオでピアノを聞こうと約束しました。
シュピルマンと言う名前を聞いた将校は、ピアニストらしい名前だと言って別れました。
戦争中の敵・味方を超えて音楽に神が宿ったようなユダヤポーランド人ピアニストの話です。

映画に見るユダヤ人  その7 「戦場のピアニスト」 #1

戦場のピアニスト」 #1
前回のブログは、「聖なる嘘つき」ピーター・カソヴィッツ監督を取り上げました。
ピーター・カソヴィッツ監督は、1938年ブタペスト生まれのユダヤ系のハンガリー人でホロコースト
生き延びた人物です。
今回は「戦場のピアニストロマン・ポランスキー監督の作品です。
映画ができるところまでの話をしてみます。


原作はユダヤポーランド人の名ピアニスト、ウワディスワフ・シュピルマンの自伝的小説です。
「ある都市の死」の書名で1946年戦争終結直後に出版されました。
共産主義ポーランド政府の干渉で絶版処分・再版妨害にあい、1999年になって英訳版がイギリスで出版されました。
ロマン・ポランスキー(1933年ー )は、ユダヤポーランド人「戦場のピアニスト」の映画監督です。
パリで生まれたが、第二次世界大戦開始時(1939年)の2年前にポーランドに移りました。
小さい頃クラフクのゲットーに過ごし、母親を大戦中にアウシュビッツで亡くし、本人はナチスドイツのユダヤ人追求から
生き延びた体験を持ちます。
シュピルマンと同じ体験を持つことから、シュピルマンが書いた自伝的回想録の本に出会い映画製作に至ります。
このことから映画「戦場のピアニスト」の特徴は、戦火を奇跡的に潜り抜けたいちピアニストとそのピアニストに
関係した人々に限られ、演出を控えめにしながらドキュメンタリー風になっています。
当時の歴史的な情報を知る現代の人間が見ると視点の狭さや流れの遅さを感じる事があるかもしれませんが、
生き延びる本人にしてみたら、一瞬一瞬の生の繋がりが明日の命となるのです。
戦場のピアニスト」の映画化の前に、スティーヴン・スピルバーグから「シンドラーのリスト(1993年)」の
監督のオファーをされた時断っています。
自分が小さい頃過ごしたクラクフのゲットーのすぐ近くにオスカー・シンドラーの経営していた工場があったのです。
あまりの生々しさに躊躇したのかもしれません。


1939年第二次大戦の直前のポーランドワルシャワには、37.5万人のユダヤ人が住んでおり
世界的に見て米国のニューヨークに次ぐユダヤ人人口の多い都市です。
1941年3月ワルシャワ・ゲットーの人口は、44.5万人でナチスドイツが作ったゲットーの中で最大規模です。
1945年1月ソ連軍にワルシャワ市が解放されるまで、生き残ったユダヤ人はたったの約200人だったのです。
戦場のピアニスト」は、このようなワルシャワ廃墟の中を生き抜いたユダヤポーランド人ピアニスト
シュピルマンの体験を映画化したものです。

「映画に見るユダヤ人」その6  ユダヤ人の歴史

「映画に見るユダヤ人」を通して「ユダヤ人の歴史」を展望します。

 1.「天地創造
 2.「ソドムとゴモラ
 3. 十戒   (聖書のエクソダス
 4.「サムソンとデリラ
 5.「キング・ダビデ 愛と闘いの人生」・「ソロモンとシバの女王
 6.「パッション」・「ベン・ハー」・「キング・オブ・キングス

 7.「ヴェニスの商人
 8. 「屋根の上のヴァイオリン弾き
 9.「炎のランナー」・「バグジー」・「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ
   「ジャズ・シンガー


10.「戦場のピアニスト」・「聖なる嘘つき」・「シンドラーのリスト」・「ショア」
   「ライフ・イズ・ビューティフル」・「アップライジング」・「ディファイアンス
   「ヒットラーの贋札」・「ヒットラーの旋律」・「夜と霧」・「終電車
   「縞模様のパジャマの少年」
    

11. 栄光への脱出 」   (映画のエクソダス
   「紳士協定」・「ソフィーの選択」・「十字砲火」・「愛の嵐」
   「Turn Left at the End of the World」・「愛を読む人」


12.「約束の旅路」・「しあわせ色のルビー」・「ウォール街」・「アニー・ホール
   「さよならコロンバス」・「ミュンヘン」・「ウォールストリート」・「ソーシャルネットワーク
   「白いカラス


以上の映画を一作ずつ調べて、映画に見るユダヤ人の歴史を見ます。
候補がまだあるので追加するかもしれません。
順番は決まっていません。ランダムに拾っていきます。